2021年4月21日にジム・スタインマンが亡くなりました。
実の兄弟、ビル・スタインマンによるとジムは長年肝臓の病気を煩っており、闘病の末に亡くなったとのことです。ジム・スタインマンはここ日本ではさほど有名ではありませんが、彼の作った楽曲はかなりの日本人が耳にしています。私自身はジム・スタインマンの音楽に触れることが多かったものの、「ジム・スタインマンの曲」と意識して聴くようになったのは1993年のことです。その後、彼の素晴らしい音楽を愛聴してきました。少しでも多くの方がジム・スタインマンの音楽に触れることを願ってこの記事を書きたいと思います。
ジム・スタインマン
ジム・スタインマンは1947年にアメリカ合衆国で生まれた作曲/作詞家、プロデューサーです。活動初期には自分で歌ったり演奏をしたりもしたので正確にいうとシンガーソングライターでもあるのですが、中期から後期は作曲とプロデューサー業に専念しました。
大学生の頃から舞台用の音楽を作曲していて、この時期の楽曲は後に録音されてヒットしたりもしてるそうです。舞台用の音楽の他にも人形劇やオペラ用の音楽も手がけていたのはジムの活動範囲の広さを示すエピソードで、有名になってからもロックやポップの有名アーティストとの共作だけでなく幅広い活躍をしています。
一躍ジムを有名にしたのは1977年に発表されたミートローフのアルバム『地獄のロックライダー』です。『地獄のロックライダー』は世界で最も売れたアルバムで3位にランクされています。ちなみに1位はマイケル・ジャクソンの『スリラー』で2位はAC/DCの『バックインブラック』です。たくさん売れたアルバムが優れていると思ってませんが、まぐれで3位というのも現実的ではありません。
ミートローフとの関係はこの後も続きますが、その他のアーティストでの活躍も光ります。1983年はAir Supplyの”Making Love Out of Nothing at All”(全米で2位)、ボニー・タイラーの”Total Eclipse of the Heart”(全米と全英で1位)が大ヒット。1984年には映画「ストリート・オブ・ファイヤー」に”Nowhere Fast”と””Tonight Is What It Means to Be Young”を提供。1996年はセリーヌ・ディオンの”It’s All Coming Back to Me Now”(全米2位、全英3位)がヒット。
この他ではアンドリュー・ロイド=ウェバーと『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド』というミュージカル作品で共作をしています。2017年には『地獄のロックライダー』のミュージカル作品も作ったようで、いわゆるポピュラー音楽界だけで活動していたわけでなく、幅広く活動していたのがわかります。
日本でジム・スタインマンがよく聴かれるようになったのは1980年代中盤だと思います。前述したボニー・タイラーの”Total Eclipse of the Heart”(邦題「愛のかげり」)はMTVが流行りだした頃のヒットだったのでビデオが繰り返し流されました。一世を風靡したラグビードラマの「スクール☆ウォーズの」主題歌はジム・スタインマンがボニー・タイラーのために書いた”Holding Out for a Hero”を麻倉未稀が歌いました。ほとんど知られていませんが続編となった「スクールウォーズ2」の主題歌は丸山みゆきが歌った”Fire”という曲なんですが、この曲はジムが書いた”Out of the Frying Pan (And into the Fire)”のカバーです。1980年代はAir Supplyも人気がありましたし、 映画の「ストリート・オブ・ファイヤー」でダイアン・レインが熱唱していた曲もジム・スタインマンの曲でした。このようにジム・スタインマンと意識をしなくてもジムの音楽に触れていた人は多かったんじゃないかと思います。
ジム・スタインマンの好きな曲
ジム・スタインマンが作曲した中から好きな曲を選びました。
曲名 | アーティスト | 収録アルバム |
---|---|---|
Faster Than The Speed Of Night | Bonnie Tyler | Faster Than The Speed Of Night |
Total Eclipse Of The Heart | Bonnie Tyler | Faster Than The Speed Of Night |
Paradise By the Dashboard Light (Glee Cast Version) | Glee Cast | − |
Out Of The Frying Pan (And Into The Fire) | Meat Loaf | Bat Out Of Hell II - Back Into Hell |
I'd Do Anything For Love (But I Won't Do That) | Meat Loaf | Bat Out Of Hell II - Back Into Hell |
Nowhere Fast | Fire Inc. | Streets Of Fire |
Tonight Is What It Means To Be Young | Fire Inc. | Streets Of Fire |
Fire | 丸山みゆき | − |
Alive | Meat Loaf | Bat Out of Hell III: The Monster Is Loose |
順番は不同で特に意味はありません。それとジム・スタインマンの曲は多くのアーティストにカバーされていることが多いので、私が好きなバージョンのアーティストと収録アルバムも記載しています。
Faster Than The Speed Of Night、Total Eclipse Of The Heart
“Faster Than The Speed Of Night”と”Total Eclipse Of The Heart”はボニー・タイラーヒットアルバム『Faster Than The Speed Of Night』に収録されています。”Total Eclipse Of The Heart”はいろんなアーティストにカバーされていますが、やはりオリジナルが秀逸です。曲の”Faster Than The Speed Of Night”はイントロのピアノのリフが最後まで印象的なミドルテンポの曲です。中盤でのシャウトはお見事で個人的にも好きなパートです。”Total Eclipse Of The Heart”は世界中で大ヒットとなった曲です。ピアノとボーカルだけの寂しげなバラードから始まり、中間部ではストリングスも使った派手で大げさな曲調に変わっていきます。最後は静かな曲調に戻るので私が好きな”Bohemian Rhapsody”に似た構成の曲です。静と動の起伏が激しく、歌詞が良いのも個人的に好きなポイントです。
Paradise By the Dashboard Light
“Paradise By the Dashboard Light”は米ドラマの『Glee』のバージョンが好きです。ジムはスタンダードなロックンロールも好きで、この曲はロカビリーを基調としたパートが特徴です。男性と女性ボーカルの掛け合いはミュージカルのストーリーに合わせたのでしょう。
Out Of The Frying Pan (And Into The Fire)
ジム・スタインマンの曲で一番好きな曲を選ぶのは難しいのですが、あえて選ぶなら”Out Of The Frying Pan (And Into The Fire)”です。この曲は1981年に発表されたジムのソロアルバム『Bad for Good』に収録されていた曲で後に『Bat out of Hell II』(1993年発表)再録されました。日本では1990年に丸山みゆきが”Fire”という曲名でカバーし、ドラマ『スクールウォーズ2』の主題歌になっています。やはりストーリー性と展開のある曲です。ギターのイントロで始まりますが、途中からピアノ絡んできていかにもジム・スタインマンの曲という感じになっていきます。スピード感もあるので、どちらかというとボニー・タイラーの”Holding Out for a Hero”(邦題「ヒーロー」)とよく似ています。
なお、この曲はドラマの『スクールウォーズ2』で初めて聴いたんですが、オリジナル曲だと思っていたので1993年に『Bat out of Hell II』を買って同じ曲を聴いたときは心底驚きました。まだインターネットがない時代だったので調べるのに苦労しましたが、ジム・スタインマンが作った曲と知り、この時に初めてジム・スタインマンの名前を知ることになりました。
公式の動画ではなくて心苦しいのですが、丸山みゆきの”Fire”も紹介しておきます。音質はもちろん良くないのですが、この曲は現在廃盤になっているみたいでSpotifyなどでも見つけられませんでした。
比較をすると忠実に原曲をカバーしていることがわかりますが、キーボードの音色がしょぼかったりと総合的な音質の違いを感じます。しかし丸山みゆきさんのみずみずしいボーカルは当時から好きでした。
I’d Do Anything For Love (But I Won’t Do That)
『Bat out of Hell II』からもう1曲”I’d Do Anything For Love (But I Won’t Do That)”です。12分もある長い曲のわりにアルバムのオープニングとなっています。重たくうねるギターリフの次に軽快なピアノが入ってくるのはジムお得意の展開ですが、これから語られる物語にたいする期待でワクワクしてしまいます。基本的にこの手の展開には非常に弱い私です(笑)
Nowhere Fast、Tonight Is What It Means To Be Young
次に紹介するのはダイアン・レインが主演したことでも有名な映画「ストリート・オブ・ファイヤー」から”Nowhere Fast”と”Tonight Is What It Means To Be Young”です。私自身は80年代からよく聴いてましたが、ジム・スタインマンとは知らずに聴いてました。日本では”Tonight Is What It Means To Be Young”が”今夜はANGEL”という曲名で椎名恵がカバーし、1985年のテレビドラマ『ヤヌスの鏡』の主題歌にもなっているのでご存じの方も多いでしょう。一般的には映画のクライマックスシーンで使われた”Tonight Is What It Means To Be Young”のほうが有名だと思いますが、”Nowhere Fast”もいい曲です。2曲ともストーリー性のある展開、ピアノ、コーラス、そして最後には希望のある明るいメロディーなどジム・スタインマン節が炸裂しまくります。
ちなみに2曲ともアーティスト名はFire Inc.とクレジットされています。2曲ともダイアン・レインが歌っているわけではなく、Laurie Sargent と Holly Sherwoodというボーカリストの声が主に使用されています。厳密に一人がリードボーカルを担当したわけではなく、声を合成することによって厚みを出したりしてるそうです。なお、Laurie Sargent と Holly Sherwoodは二人ともジム・スタインマンと仕事をした経験があり、映画「ストリート・オブ・ファイヤー」の他の曲でもコーラスを担当しています。
映画のほうはベタな展開ですが、この2曲だけでなく全体的に音楽はいいので、音楽映画が好きな方は是非ご覧くださいませ。
Alive
最後に2006年発表のアルバム『Bat Out of Hell III: The Monster Is Loose』に収録されている”Alive”です。これまで紹介してきた曲と似た曲調ですが、ミートローフのボーカルが繊細で好きです。元々上手いシンガーですが年を重ねて表現力がさらに増してると感じます。
ジム・スタインマンのお薦め作品
これは意外と簡単です。
アルバム単位でお薦めしたい作品はボニー・タイラーの『Faster Than The Speed Of Night』、Meat Loafの『Bat Out Of Hell II – Back Into Hell』、映画「ストリート・オブ・ファイヤー」のサントラです。この中でも『Bat Out Of Hell II – Back Into Hell』はジムが全曲を作曲しているのでジム・スタインマンの世界が好きな人にはお薦めです。ボニー・タイラーの『Faster Than The Speed Of Night』はジムの曲が2曲しかありませんが、その他の楽曲も非常によくできています。
次点としてMeat Loafの『Bat Out Of Hell』、『Bat Out of Hell III: The Monster Is Loose』、ジム・スタインマン名義のソロアルバム『Bad For Good』をお薦めします。『Bat Out of Hell III: The Monster Is Loose』は『Bat Out Of Hell II – Back Into Hell』の続編としてなんの違和感もないので『Bat Out Of Hell II – Back Into Hell』を気に入ったなら好きになるでしょう。『Bat Out Of Hell』はモンスターアルバムだけあって楽曲はいいのですが、音質に難有りです。1970年代の音質を気にしないならば聴いておいた方が良いアルバムです。『Bad For Good』はなんと言ってもジム・スタインマンにとって唯一のソロアルバムです。全曲の作曲を担当し、ほとんどの演奏もジムが担当しているのでジム色が強くなっています。音質とサウンドプロデュースはいまひとつですが、ジムを知る上で重要な作品なのは間違いないです。
ジム・スタインマンの魅力
これまで書いてきたように「ストーリー性のある展開」、「ピアノ」、「コーラス」、「希望のある明るいメロディー」が最大の魅力を感じています。一番好きなアーティストのQueenに感じている魅力と似てますね。これらの魅力の中で特に好きなのがピアノです。ジム・スタインマンのピアノは流れるような美しい旋律を奏でたり、リズムを刻む印象的なリフだったり使い方が非常に上手いです。いわゆるピアノロックは好きなほうですが、ピアノを使えばいいというわけではなくてジム・スタインマンの楽曲が好きなのはピアノの使い方が上手いからです。
この他にも女性ボーカルの声質が好きです。ボニー・タイラーも好きですし、映画「ストリート・オブ・ファイヤー」での声も合成してあるとは言え、仕上がりが素晴らしいと感じます。
個人的にミュージカルやストーリー性のある曲は好きなのでジム・スタインマンの楽曲に惹かれたのは必然だったと思います。Queenに限らず、QueensrycheとSavatageのコンセプトアルバムは好きですし、ここ10年はブロードウェーやウェストエンドのミュージカル作品も好んで聴いています。舞台演劇やミュージカルのための作曲をキャリアの初期に経験しつつロックやポップといったジャンルと融合をさせたジム・スタインマンは私にとって理想的な音楽家だったと思います。
あくまでも私の好みですが、ジム・スタインマンのプレイリストをSpotifyに作成しました。
まとめ
ジム・スタインマンについて書きました。私の好みが偏っているため、ジムの魅力のすべてを伝えてきれているとは思いませんが、この記事を読んで一人でも多くの方がジム・スタインマンの音楽に触れてくれたらいいなと思います。
好きな音楽家が亡くなるのは寂しいものがありますが、73歳ということを考えるとありがとう&おつかれさまと言いたいです。
最後にSpotifyにジムの音源を集めたプレイリストがあったので紹介します。
この記事は以上です。
コメント